女を攫う、飛騨美濃の毛むくじゃら

山こ(獲)

やまこ / 玃 / 黒ん坊 / 玃猿

深山に、雌のない獣がいる。子を残すため、それは里の女を攫ってゆく。人の言葉を話し、人の心を読み、鎌を構える手の震えさえ見抜く——だから逃げ足だけは、どんな猟師よりも速い。楊という姓の家は、その血を引くともいう。

山こ(獲)の立ち絵

危険度・希少度

B
戦闘力

条件がそろえば、人の命にも関わる。

B
敵対性

縄張りや禁忌に触れた者を積極的に襲う。

A
稀少性

限られた土地でだけ、まれに語られる。

概要

飛騨・美濃(現在の岐阜県)の深山に棲むとされた妖怪で、玃(やまこ)や黒ん坊とも呼ばれる。全身は黒く長い毛に覆われ、猿に似て大きく、二本足で立って歩く。人の言葉を解し、人の心をも読むため、捕らえようとしても素早く察して逃げてしまう。

出現

人里離れた深山の道で、ふいにこの大きな黒い影と行き合う。背丈は人を超えるほどで、全身をおおう黒い長毛が風に揺れる。夜には里近くまで下り、灯のともる人家の様子をひそかにうかがうこともあったと、山里に語り継がれてきた。

伝承

江戸後期の随筆『享和雑記』は、美濃の猫尾での出来事を伝える。ある夜、独り身の未亡人のもとへ見知らぬ男が通ってきて言い寄ったが、女が鎌をふるって追い払うと、二度と現れなかった——その正体こそ、この山の獣だったという。

特徴

唐土に伝わる玃猿の類とされ、群れに雌が一匹もいない。ゆえに人間の女をさらって連れ帰り、子を産ませるという。子を産んだ女は里へ帰され、産まぬ女は帰されなかったとも語られる。相手の殺意すら先読みする賢さゆえ、猟師も容易には仕留められなかった。

山こ(獲)のカバー画像