土佐の山奥に現れた、無言の山人
山みこ
差し出された飯を、黙々と、旨そうに平らげる。六十がらみの男は礼も言わず、名も明かさず、ただ満ち足りた顔で山を見上げる。里の者が幾日引き止めても、その口はついに開かない。やがて背を向け、木々の奥へ。あれは人だったのか、山の神の使いだったのか——土佐の谷は、今も答えを返さない。
概要
土佐の山奥に現れたとされる山中の異人。歳は六十ばかりに見えるたくましい肉付きの男で、一言も口をきかない。山の神に連なる存在と考えられ、妖怪というよりは山人の一種として語り伝えられてきた。
出現
寛永十九年(1642年)の春、まず豊永郷の谷あいに棲みつき、その年には高知の城内にも姿を現して多くの人に目撃された。里で二、三日ほど留め置かれたが抵抗する様子もなく、やがてもとの山へと放し返されたと伝わる。
伝承
柳田國男が『山の人生』に書き留めた土佐の一件による。本人は一言も名乗らなかったため、山中のいわゆる異人、それも山の神に連なるものと解して「山みこ」の名が与えられたという。当時は各地で山人出現の話が相次いでいた。
特徴
食事を与えれば何でも旨そうに平らげるが、決して言葉を発しない。人里へ下りて姿を見せることもあれば、留められても暴れず、放てば静かに山へ帰る。害をなさず、山の神の眷属めいた気配だけを残していく存在である。