病をもたらす、目に見えぬ風
悪い風
どこからともなく吹き抜けて、置き土産に熱を残す。姿なきものほど、払うのは難しい。
概要
吹かれると急に高熱を出したり、気分が悪くなるとされた風。目には見えず、そのなかに邪気や妖怪がひそむと考えられた。理由の分からぬ発熱や不調を悪い風のしわざとして説明し、これを避け、また払うための呪いが各地で営まれた。
出現
屋外で不意に吹きつけられると、ほどなく体が火照り、頭が重くなる。とりわけ子どもが急な熱を出したとき、悪い風に当たったのだと語られた。峠や辻、墓地のあたりなど、あの世と通じる場所に流れるものほど質が悪いとされた。
伝承
熱を発する風があるという言い伝えは、海辺の村々に古くからあった。長崎県五島では盆の十六日の朝、死者の霊を乗せて吹く「精霊風」があるとされ、これに当たると急に病んだり倒れたりするため、その日は墓への道を避けたという。風邪の「風」の語も、こうした風の観念に連なる。
特徴
姿かたちを持たず、ただ吹き抜けるだけで人を病ませる点に、この風の不気味さがある。当てられたと思しき熱には、箕に包丁やしゃもじ、釜の蓋を入れて呪文を唱え、家の裏口から中身を放り捨てて追い払う「箕加持」の呪いで対した。