「田を返せ」と泥から叫ぶ一つ目の亡者

泥田坊

売った田の泥が、夜ごとむくりと盛り上がる。一つ目の亡者がせり上がり、三本指を突き上げて呻く。「田を返せ、田を返せ」。父祖の汗はもう戻らぬと知りながら、それでも泥は、今宵も同じ言葉をくり返す。

泥田坊の立ち絵

危険度・希少度

D
戦闘力

直接人を害する力は伝えられていない。

C
敵対性

脅かし惑わせはするが、深追いはしない。

A
稀少性

限られた土地でだけ、まれに語られる。

概要

泥田坊は、鳥山石燕が画集『今昔百鬼拾遺』に描いた妖怪で、他人へ売られた田を恨む亡者とされる。北国のある翁が子孫のために田を買い遺したが、跡取りの息子は酒におぼれて田を売り払ってしまう。以来、夜ごとその田に一つ目の黒い者が現れ、「田を返せ、田を返せ」と叫んだと伝えられる。

出現

現れるのは、かつて翁が耕し、いまは人手に渡った北国の一枚の田である。日が暮れて夜が更けると、泥の中から真っ黒な上半身がぬっと立ち上がる。三本指の手を振り上げ、たった一つの目で買い主をにらみつけながら、「田を返せ」と恨みの声を張り上げるという。

伝承

この怪を伝えるのは、鳥山石燕が絵に添えた『今昔百鬼拾遺』の解説文のみである。同様の話は当時の他の文献や民間の言い伝えには見当たらず、古い伝承に基づくのか石燕の創作なのかもはっきりしない。名の由来も、「泥田を棒で打つ(=すべてを台無しにする)」という諺に掛けたとも、狂歌師の号にちなむともいわれ、定かでない。

特徴

泥田から抜き出た上半身だけで姿を見せ、その顔には目がただ一つ、手の指も三本しかない。全身は泥にまみれて黒い。生前に注いだ田への執着だけが凝り固まったような存在で、夜ふけに「田を返せ」と繰り返し叫ぶほかは、人へ直に手を出したという話は伝わらない。日が昇れば、また泥の底へ沈んでゆく。

泥田坊のカバー画像