数日で死にゆく、海から来た半人半魚。
海人
かいじん
言葉をかけても、応えはない。魚を差し出しても、口をつけない。人に似た顔で人を見つめたまま、それは静かに乾いていく。海だけがこの客人を生かしておけた——浜に上がったその時から、別れはもう決まっていた。
概要
海人は江戸期の本草書や見聞録に記録された半人半魚の怪。頭は人に似て毛・眉・髭をもつが、手足の指には水掻きがあり、腰から斑の肉皮が幾重にも垂れて袴のように下半身を覆う。海に棲み、陸へ上がっても数日で死んでしまう。人語を解さず、人の与える食物も受け付けない。
出現
浜辺に打ち上がったところを人に見つかる。江戸時代の長崎では、一体が岸に現れた記録が残る。人々が言葉をかけても答えず、食べ物や水を差し出しても口にしないまま、数日のうちに弱って死んだという。水を離れて生きられぬ体ゆえ、その出会いは常に短い別れを伴う。
伝承
貝原益軒『大和本草』や『長崎見聞録』に、その姿と生態が書き留められている。『大和本草』は海に棲む人似の生き物を海夫人・海女房とも呼び、俗に人魚と称したと記す。近世の博物誌のなかで、海人・海女房・人魚は境を曖昧にしたまま隣り合って記録された。
特徴
指をつなぐ水掻きで水中を巧みに泳ぎ、垂れた肉皮を袴のようにまとう。人に近い知恵をうかがわせながら、人語も人の食も頑なに拒む。陸では長らえられず、数日で命尽きる。その正体はアザラシやラッコなどの海獣を見誤ったものとする説もある。