能登を荒らした、一角の鬼猿
猿鬼
さるおに
月夜に一本の角が畦を渡る。当目に矢が刺さり、黒川に血が流れて、能登の地名だけが今もその夜を憶えている。
概要
頭に一本の角がある猿に似た怪物。人や家畜に害をなすが、左大将義直公に退治された。
出現
能登の山中、当目の岩屋堂と呼ばれる岩穴を塒とし、夜ごとそこから人里へ下りてくる。十八匹の眷族を引き連れて田畑を踏み荒らし、家畜をさらい、若い娘をも攫っていったという。角を戴いた影が月明かりの畦道をよぎるのを見た者は、戸を固く閉ざして息を潜めるほかなかった。
伝承
能登地方に伝わる。困り果てた村人が氏神の託宣に従い、武勇に優れた左大将義直公を迎えて猿鬼を討たせたという。別伝では気多大明神が放った筒矢が左目を貫き、神杉姫が名刀『鬼切丸』で首を刎ねたと語る。矢の当たった地を当目、血の流れた地を黒川と呼ぶ地名起源譚を伴う。
特徴
猿に似た体躯の頭上に、鋭い角が一本そそり立つ。眷族を束ねて群れで里を襲う統率と、家畜や人を組み伏せる膂力を備える。討たれた角は今も能登島の伊夜比咩神社に伝来すると語られ、その怨霊を鎮めるために岩井戸神社が建てられたともいう。祟る力を畏れられた鬼である。