絵馬を愛する者に秘法を授ける、額の中の翁
絵馬の精
えまのせい
堂の軒に、雨足だけが白く煙る。「お主、よほど絵馬が好きと見える」——気づけば隣に、いつからそこにいたとも知れぬ翁が一人。
概要
絵馬を熱心に研究する者の前に現れ、秘法を伝授する絵馬の化身。
出現
静かな堂での思いがけない対面から、その導きは始まる。浅草で医を業とした駒形道安は、絵馬の研究に人一倍熱を入れていた。ある日、大雨に降られて近くの堂へ駆け込み雨宿りしていると、いつの間にか一人の老人がかたわらに腰を下ろしている。お主はよほど絵馬が好きと見える、この道に通じる者として秘法を授けたい——翁はそう語りかけてきたという。
伝承
絵馬はもともと、神仏への祈願や報謝のために馬などを描いて奉納した額で、そこに籠もる念が精を宿すと信じられた。道安が翁から奥義を授かったという浅草の逸話のほか、額の馬が夜ごと抜け出す怪も各地に伝わる。京都・清水の絵馬が夜な夜な野へ出て草を食み、清水が焼けたときその絵馬も消え失せたという話が、新井白蛾「牛馬問」に記されている。
特徴
人に害をなすことはなく、むしろ絵馬を慈しみ、その道を究めようとする者に味方する。求めに応じて絵馬にまつわる秘法や深い知識を授け、時に夜の堂で不思議な一夜を過ごさせる。多くは物静かな老人の姿を借りて現れ、教えを授け終えると、いつの間にか姿を消しているという。