家に富をもたらす蛭の憑き物
蛭持ち
元旦の朝、湯気の立つ雑煮の椀。箸を止めて、まず神棚へ。――ひと目を離した隙に、餅も汁も、ぬめる蛭にすりかわる。福をくれる代わりに、この家はずっと、正月の味を知らずにいる。
概要
島根県の邑智郡などに伝わる憑き物の一種。蛭の外道を持つ家筋を「蛭持ち」と呼び、その家は富み栄えるという。正月の雑煮にまつわる奇怪な言い伝えを持つ。
出現
蛭持ちの家では、正月の食卓にその怪異が顔を出す。元旦に炊いた雑煮を膳に据えると、いつのまにか椀の中身がことごとく蛭へと変わってしまう。そのため家の者は元旦の雑煮に箸をつけず、まず神棚へ供えるのを習わしとしたという。
伝承
蛭の外道は家に憑いて富をもたらす憑き物で、家人が弱った蛭を助けたのを縁に憑きはじめたと語られる。授かった福は分け与えることもでき、蛭の外道を授ける社が兵庫県にあったとの言い伝えも残る。
特徴
蛭の外道は目に見えぬまま家に棲みつき、田畑や商いを陰から肥やして一族を潤すとされる。その富の代償のように正月の膳へ蛭を這わせ、外道持ちの筋として縁組を避けられ、村の中で遠巻きにされることもあった。一度憑いた外道は、手放そうとしても容易には離れないともいう。