転べば喰らう夜山の随伴者
送り犬
転ぶな。息を整え、腰を下ろせ。あれは臆病を喰う。恐れぬ背中には、牙を立てぬ。
概要
送り犬は、東北から九州まで各地に伝わる妖怪。夜の山道を行く人の背後を、犬の姿でぴたりとついて来る。歩く者が転ぶと即座に襲って食い殺すが、無事に送り届ければ守り神ともなる二面をあわせ持つ。地域によっては狼の姿とされ「送り狼」とも呼ばれる。
出現
日が落ちた山道を一人で下っていると、いつの間にか後ろから犬の足音がついて来る。振り返っても暗がりに姿は定かでなく、ただ気配だけが離れない。石につまずいて転倒した瞬間こそ命取りで、隙を見せた者に牙が向く。家の戸口まで来ると、足音はふっと消える。
伝承
『和漢三才図会』には、狼が旅人の頭上を幾度も飛び越え、恐れぬ者は害さないが、恐怖に転んだ者を噛むと記される。『本朝食鑑』には、抵抗せず命乞いをすれば獣の害から守るとある。転んでも「疲れて一休み」と装って腰を下ろせば襲われぬといい、無事に着いた後は草鞋や塩、握り飯を供えて礼とした。
特徴
昼は現れず、夜の山道でのみ人の後をつける。転倒や恐怖でできた隙を狙って襲うが、うろたえず身構えを崩さぬ者には手を出さない。礼を尽くした相手には態度を一変させ、他の獣から身を守る随伴者となる。南信州では人を守る送り犬と、人を襲う「迎え犬」を区別して呼んだという。