洪水を呼ぶ、闇夜の問い声
遣ろか水
遣ろか。むやみに欲しがるな。川は、望んだだけの水を必ず寄越す。
概要
大雨で川が増水した夜、上流の闇から「遣ろか(やろうか=水を寄越そうか)」と呼びかける声だけの水の怪。うっかり「よこせ」と応じると、たちまち濁流が村を呑み込むという。木曽三川の流域に語り継がれる。
出現
尾張と美濃を貫く木曽川など木曽三川のほとりで、豪雨の続く夜、水かさが増した頃に現れる。姿は見せず、上流の暗がりから「ヤロカ、ヤロカ」と繰り返し問う声として耳に届く。答えるか黙するかを、聞いた者に迫ってくる。
伝承
増水した川上から「遣ろか」と声がし、これに「よこさばよこせ」と応じると、水が一気にあふれて答えた村を押し流すと伝わる。慶安や貞享の大洪水がこの怪と結びつけて語られ、柳田國男の民俗記録にも残る。
特徴
声のほかに実体はなく、人が呼びかけに応じた瞬間、川の水量を爆発的に増やして村もろとも押し流す。応じず沈黙を守れば、水は何事もなく静まるという。豪雨のたびに繰り返される洪水への恐れが、この問い声へと凝った。