坂道に燃える、心中の二つ火
遺念火
疑ったのは、たった一度きり。だが二つの火は、幾夜も互いを探して坂をのぼる。
概要
沖縄に伝わる火の妖怪。非業の死や心中を遂げた男女の情念が、二つの火の玉となってもつれ合うように現れる。遺念とは亡霊を指す沖縄の言葉で、因縁火とも呼ばれ、数々の悲恋の物語を伴う。
出現
首里の南、識名坂で夕暮れ時に灯るものがよく知られ、トジ・マチャー・ビー(妻の火)とも呼ばれる。飛び回ることはなく、決まった坂道や川べりに二つ並んで浮かぶ。人目につかぬ山中や、稀に海上に現れることもある。
伝承
毎日この坂を越えて豆腐を売り歩く妻がいたが、他人の讒言で夫は妻の貞操を疑い、絶望して識名川に身を投げた。帰宅して知った妻も後を追う。以来、坂から川へと二つの火が現れるようになったという。名護にも似た話が語られる。
特徴
生前に結ばれず、あるいは引き裂かれた男女の未練が火の姿をとったもの。二つの火は互いを求めるように寄り添い、ゆかりの場所を決して離れない。人を焼くような害は伝えられず、見る者の胸にただ物悲しさだけを残していく。