経典に現れた狐の異名
野干
やかん / 射干 / 夜干 / 悉伽羅
経を漢訳する僧が、見知らぬ獣の名に筆を止めた。天竺の野を駆けるあの獣は、この国にはいない。ならば――木に登るあの狐を、そう呼ぶことにしよう。
概要
仏典に由来する、狐に似た獣の名。梵語シュリガーラの音訳で本来はインドのジャッカルを指すが、その獣がいなかった中国・日本では狐と混同され、日本では狐の異名として定着した。木によく登るのが特徴とされる。
出現
深山や墓所、屍を捨てた林のほとりに現れ、群れをなして夜に鳴くとされる。狐と違って木の枝までよじ登るため、見上げた梢の暗がりに、ぬっと影がわだかまっていることもある。夜道でその鳴き声を狼のそれと聞き違える者もいた。
伝承
梵語シュリガーラを写した仏典由来の語で、閻魔天の眷属として尸林をさまよう不吉な獣と説かれた。日本では平安期の密教流入とともに狐の異名となり、『日本霊異記』などでも狐を指す。のちに白狐に乗るダキニ天や稲荷の信仰と結び付いた。
特徴
姿は青黄色で犬に似るとも、狐より小さいともいう。人を食らい、木登りを得意とする。仏典の中では人の言葉を解する知恵者として描かれ、時に仏法を説き、時に旅人を惑わす。その正体は、天竺の野を駆けたジャッカルだったともいう。