凪の海に影を呑む怪魚

鰐鮫

海が鏡のように凪いだ日こそ、うかつに水面をのぞいてはいけない。そこに静かに映るあなたの影は――もう半分、あの大きな口の中にある。

鰐鮫の立ち絵

危険度・希少度

A
戦闘力

人の命を奪う明確な攻撃手段を持つ。

B
敵対性

縄張りや禁忌に触れた者を積極的に襲う。

A
稀少性

限られた土地でだけ、まれに語られる。

概要

凶暴な鮫。海面に映る人間の影を呑み、その人の魂を抜いて死に至らしめる「影鰐」として恐れられた。

出現

波一つ立たない凪の日、島根の温泉津あたりの海に姿を見せる。船を出した漁師や船乗りが、鏡のように静かな海面をのぞき込むと、そこに映った己の影めがけて、鮫に似た巨体が音もなく忍び寄ってくる。時化ではなく、つい気のゆるむ穏やかな日にこそ現れるという。

伝承

山陰では鮫を『鰐(わに)』と呼び、この怪魚は影鰐(かげわに)の名でも知られる。影を奪われた者は命を落とすと伝わり、現れたときは船底のむしろや底板を剥がして水面へ投げ入れ、己の影が映らぬようにして難を避けよという。凪の日とて海を侮るな、という漁師たちの戒めが込められている。

特徴

この怪魚が狙うのは肉体ではなく、水面に落ちた影のほうである。影をひと呑みにされた者は、体に傷ひとつなくとも命を落とすとされる。かつて銃で影鰐を撃ち殺した漁師もいたが、後日、海辺に打ち上げられたその骨を踏み抜き、足に刺さった傷がもとで命を落としたという。討ち取ってなお祟る、執念深い海の怪である。

鰐鮫のカバー画像